02


朝餉を終えた彰吾は執務をするという政宗に従い、自分の出来る範囲で手伝いをしていく。

「政宗様、こちらの書簡の返事は…」

「あぁ、それはその右手に置いてあるのと一緒で良い」

「分かりました」

筆を手に取りさらさらと、彰吾は手慣れた様子で返書を書き写していく。
それを認めて、書面に視線を落としていた政宗はふと口を開いた。

「お前字上手いな。誰から習った?」

「そう…ですか?字は父から習いました。俺の父が文武両道なので、俺も自然とそうなったみたいです」

「へぇ。てことは武の方もかなり強いのか」

「貴政様…遊士様の父君の指南役であった時期もあるそうですから、それなりに強いとは思いますが」

実際、貴政と総司、どちらが強いのか彰吾には分からなかった。

いつの間にか止まっていた手を動かしながら今度は彰吾が訊く。

「政宗様と小十郎殿では…」

「多分、小十郎の方が俺より上だろうな。普段は抑えてるみてぇだが、アイツが本気出すと凄いぜ」

書面に視線を戻した政宗は自分の事の様にどこか誇らしげに答えた。

「お前と遊士じゃ、やはりお前か?」

「えぇ…、まぁ。技においては遊士様に敵いませぬが、力となるとそこはやはり埋めがたい差が」

「hum…それだけは俺達にもどうしてやることもできねぇからなぁ」

筆を墨に付け、政宗は真剣な顔で半紙に筆を走らせる。ふつりと途切れた会話を気にせず彰吾もまた、墨の乾いた返書を綺麗に畳み始めた。






一方、着替えを済ませた遊士は小十郎と共に朝餉を食した後、念の為相手の予定を確認していた。

「特に何も。今日一日、遊士様がよければお付き合いさせて頂きますが」

「それは手合わせもOKってことか?」

「はい」

やんわりと小十郎が頷き返した瞬間きらりと輝く純粋な瞳。
小十郎は苦笑を浮かべ、続く遊士の言葉を待った。

「なら、今日一日オレの剣術指南役になってくれ」

「構いませぬが、私は厳しいですよ?」

「それでも良い。じゃぁ、袴に着替えたら鍛練場に集合で」

「分かりました」

普段通り鍛練場で成実に稽古をつけてもらっていた兵達は、そこへ姿を見せた遊士と小十郎に首を傾げた。

「おっ、珍しいね、遊士と小十郎だけなんて」

その中で、二人に気軽に声をかけたのは言わずもがな成実だ。
珍しいと言われた遊士はそうか?と小十郎を振り返り、小十郎も特に気にしてはいなかったのか、はてと首を傾げた。

「ま、良いか。それより少し場所借りてもいいか?」

「良いよ。ちょうど休憩にしようと思ってたとこだし」

成実の指示で鍛練していた兵達は横へ捌けていく。ぽっかりと空いた鍛練場の中央で、遊士は木刀を手に小十郎と向き合った。

途端、変わる遊士の雰囲気。
背筋をピンと伸ばし、凛とした強い眼差しが真っ直ぐ小十郎を射抜いた。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

告げられた言葉に小十郎も気を引き締め、木刀を構えた。


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